無催告解除について
信頼関係不破壊の評価



Monthly SHIHO-SHOSHI
月報司法書士 2004年8月号(No.390)

短期集中講座
実践・建物明渡請求 Vol.2
愛知県司法書士会 松原 弘樹

■無催告解除特約の有効性について

 前回(本誌389号)で強行法規上無効とされる特約についてみてきた。建物明渡請求をする上で、その扱いが常に問題となる、「賃料の支払を1ヵ月以上怠ったときは、何らの通知催告をせず契約を解除できる」という特約は有効か? という点について考察する。
 賃料滞納は賃借人の賃貸人に対する賃貸借契約上の債務不履行である。民法第541条によると、賃貸人は「相当の期間を定めてその履行を催告し若し其期間内に履行なきときは契約の解除をなすことを得」と定めている。さらに判例・通説は、建物賃貸借契約のような継続的な契約関係では、当事者間の信頼関係が破壊され、契約を継続し難いと認められなければ、契約の解除はできないとしている。
 しかし、それは無効ではなく、制限的に有効と考えられている。最高裁昭和43年11月21日判決は、「賃貸借関係が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するにあたり、催告しなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存在する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である」と判示している。
 賃料滞納が1ヵ月分の滞納では他に特別の事情がなければ当事者間の信頼関係破壊には至らない。しかし、賃料滞納が累積したことを、「特別の事情」として催告なく解除できる場合もある。上記最高裁判決のすぐ後に、東京地裁昭和44年1日28日判決は、「(特約は)家屋賃貸借の継続的契約関係たる特質を考えると、賃貸借契約の継続を強いることが賃貸人に酷であるといえる程度の賃料債務の履行遅滞が生じた場合には、催告なしで賃貸借契約を解除できる、ということを定めた限度において効力を有するものと解する」と判示している。
 どの位滞納したら無催告解除が認められるかの確たる基準はないので、実務では常に催告の上解除するという手順で対処すれば、無催告解除の効力をめぐる紛争は避けることができる。


■催告後の問題点

1.賃借人が滞納賃料を支払った上、契約の継続を申し出た場合
 無催告解除が認められそうもないと判断し、催告したはいいが、契約解除前に滞納賃料が全額支払われると、解除原因である債務不履行(賃料滞納)が解消し、契約は解除できずに、継続せざるを得ない可能性が高い。


2.支払約束文書(誓約書・念書・確約書等)の重要性
 契約解除前に滞納賃料の支払の申出があった場合、支払約束文書を取っておくことが、将来、再び不履行があった場合に有利に展開できる。支払いを確約しておきながら、その約束を破るということは、信頼関係の破壊をもたらす重要な事実である。将来、契約を解除して立退きを請求する場合、それが書証として大変重要な役割を果たす。
 よって、「そんな、念書を何枚もらったところで無駄だ」と憤るであろう賃貸人をなだめつつ、一筆もらっておくべきである。


3.支払約束文書の要件
 支払約束文書のポイントは、次の(1)から(5)であろう。
(1)滞納賃料額の承認
 消滅時効が中断される。(民法第147条)なお、金額計算につき後日争いがないよう滞納賃料の明細を文書で明示する。
(2)滞納賃料の支払いの約束
 一括払いか分割払いか承認した債務の弁済方法
(3)今後発生する賃料等については、原契約どおり支払うことの確約
 (4)の制裁条項とともに記載すると効果がある。
(4)支払い約束に違反したときの制裁
 約束に違反した場合には契約を解除できる旨の制裁条項。解除権発生には原則として催告が必要だが、すでに賃料滞納問題が発生した後の支払い約束文書なので「無催告解除」が認められるケースもあると考えられる。
(5)契約解除後、明渡しをしない場合の制裁


■契約解除後の問題点

 賃料を支払わない賃借人に対し、首尾よく契約解除通知が到達したとしても、また、新たな問題点が生じる可能性がある。ここでは次に、契約解除後の問題点も考察してみることにする。


1.契約解除通知後に振り込まれた賃料
 契約解除を通知し、明け渡しを請求した後になって、賃料が振り込まれた場合、返送することはなく、「賃借権なく占有使用していることによる使用損害金」として受け取る旨の通知をする。この通知は、契約解除後に相当する分については、賃料として受領したのではないこと、あくまで契約は解除したことを明確にするものである。


2.契約解除後、明渡し請求に対して立退き料、造作買取を請求
 (1)立退き料について
 借地借家法では、立退き料は賃貸人が賃借人に対して契約の更新拒絶又は解約申し入れに際して、必要とされる正当事由を補充するための財産上の給付である。よって、賃借人自ら債務不履行をし、契約を解除された場合には、立退き料を支払う法的根拠はない。
 (2)造作買取請求権について
 旧借家法では、単に「賃貸借終了の場合」に造作買取請求権が認められるとしていた(旧借家法第5条)。これにつき、多数説は造作買取請求権は社会経済的損失を防ぐ制度なので、契約終了の理由を問わず認められるとの見解であったが、最高裁昭和31年4月6日判決の趣旨に従い借地借家法では善良な借家人の保護を目的とし、債務不履行を理由として契約が解除された場合には造作買取請求は認められなくなったと考えられる。
※ 現実には賃料滞納者にも立退き料を支払っていることもあるようだが、それは、賃貸人が早期解決のために任意に支払っているのに過ぎず、法律上の義務として支払っているものではない。もし、立退き料を要求して譲らなければ法的手段により解決するしかないであろう。


■賃借人が契約解除・明渡しに同意した場合

 次に、賃借人が賃貸人側からの「契約解除・明渡請求」に任意に応じてくれた場合について注意することは、何であろうか。せっかく、円満解決、円満移転となるお膳立てができても、最後の詰めを誤ると、後々の紛争の種となり、双方に遺恨を残しかねないからである。ここでも、やはり文書により合意を取り交わすことが何より大切であろう。 しかし、実際のところ、未払い賃料を支払うことを約束し、その上、すぐに退去にも応じることができる賃借人であれば、そもそも賃料延滞等の問題を起こさない。事実、そのような念書を交わしたとしても、その実現性が薄いことは承知しておくべきことかもしれない。そこで、建物明渡しにつき猶予期間を定め、その期限までに、建物を明け渡したときは、滞納賃料・使用損害金の支払を金額免除する条項を盛り込んだ、「明け渡しを条件とする滞納金等免除の和解書」についても、その実現性からいって、実務では必要な措置かもしれない。先の「契約解除後の問題点」でも述べたことであるが、立退き料については、賃借人自ら債務不履行をし、契約を解除された場合には、立退き料を支払う法的根拠はない。しかし、確実に立ち退いてもらうには有効な手段と考える。
 以上のとおり賃借人が賃貸人側からの「契約解除・明渡請求」に任意に応じてくれた場合に、文書を取り交わす注意点をまとめると次のとおりである。
 (1)契約の終了日について
 「本日、合意解約(又は解除)した」「○月○日、解除されたことを確認する」等。
 (2)明渡し猶予について
 明渡し約束の日までは「明渡し猶予期間」となり、「使用損害金」の支払い義務が生じる。これは、話し合いにより免除することもある。
 猶予期間内に明け渡さない場合の制裁は「明渡し猶予期限の翌日から明渡し完了まで1日○○○円の割合による違約金を支払う」。
 (3)未払賃料について
 全額支払うか、一部免除か、全額免除か、また免除の条件などを明確に合意する。
 (4)立退き料について
 引越代もない賃借人に対しては立退き料を支払わなければ和解で解決できない場合もある。ただし、約束通り明け渡さない場合には権利放棄をさせる合意をする。これにより、立退き期限を違約する賃借人が少なくなる。
 (5)敷金の精算・原状回復費用の負担について
 契約通り処理するか、和解時に精算条項を入れるか、後日紛争が起こらないように取り決める。「この和解書に記載の外、何ら債権債務がないことを相互に確認する」という合意を入れると、それにより、敷金・原状回復費用も精算済となること注意が必要である。
 (6)残置物の権利放棄について
 明渡し後の退去者からのクレームを避けるため。


■保証人に対して

 最後に、保証人への対処方法につき考察する。建物明渡請求事件のうち、かなりの頻度で、その相談内容が、「賃借人が延滞を繰り返した上、現在、連絡が取れない状況です」と言われる事は、ある程度、覚悟が必要であるといえるかもしれない。そのような状況で、保証人に対して、どのように請求することになるのかにつき考えてみる。


1.保証人の責任
 「建物賃貸借契約について言えば、賃料等の契約上の金銭債務・債務不履行不法行為に基づく損害賠償義務・契約終了後の目的物返還義務・使用損害金支払義務等が全て保証債務の範囲に含まれる」(大審院昭和13年1月31日判決)と保証人の責任を広範囲に認めるものがあったが、そうだとすると、保証人の責任において、建物明渡しを求めることが可能なのかということが問題となる。
 それに対しこの判例は、「但し、目的物の返還義務(建物明渡し義務)については、主債務者たる賃借人の一身専属的な義務であり、保証人がそれを代行する義務はないとされており、目的物の返還をしないことによる使用損害金が保証債務の内容となる」(大阪地裁昭和51年3月12日判決)としており、あくまで、保証人に対して目的物の返還義務(建物明渡し義務)についてまで認めていないことは認識しておく必要がある。


2.賃貸借契約の更新と保証人の責任
 保証人の中に、「確かに契約時に保証人となったが、契約更新後は、保証債務はない」と主張されることが多い。
 建物賃貸借契約においては、原則として契約更新後も保証人は保証債務を負うと考えられる。最高裁平成9年11月13日判決では、「期間の定めのある建物賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨を伺わせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責を負う趣旨で合意されたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責を免れないというべきである」と判示している。


3.更新後の保証について保証人の意思確認が不要とされる理由
 また、大抵の場合、契約の更新に関して保証人の意思確認がなかったことを理由に保証債務消滅の主張がなされる。
 民法上の契約の更新においては、法律上は更新前後の契約に同一性はなく、前賃貸借の担保(保証人は人的担保)は期間の満了により消滅すると定められている(民法第619条2項)。
 しかし、借地借家法の適用を受ける借家契約の場合には、前記最高裁判決による次のような理由から、更新後の契約についても保証責任を負わせても不合理はないと考えられる。
(ア)本来、相当の期間にわたり存続が予定された継続的な契約関係である。
(イ)更新が原則とされ、正当な事由がなければ、更新により契約を継続するのが通常である。
(ウ)保証における主たる債務は定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とし、予期しないような保証責任は一挙に発生しないことが通常である。
(エ)以上により、建物賃貸借契約に伴う保証契約では、更新後についても保証責任を負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致する。


4.更新後の保証債務について否定される場合
 しかし、以下のような場合には、更新後の保証債務について否定されることがあるので注意が必要である。
(ア)契約上、保証責任につき反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情がある場合。保証条項中に「本契約期間に限り保証する」という約定がある場合等。
(イ)賃貸人において、更新後の保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合。更新時に200万円の滞納があったにもかかわらず、契約を解除せず、保証人に保証継続意思の確認もせず、最終的に滞納額が400万円を超えてしまった場合等。(おわり)
 


建物明渡訴訟

1.家賃の延滞と建物明渡し

 家賃の支払が半年ぐらいも滞っていて、借主に出ていってもらいたいが、弁護士に依頼する余裕がなかったり、借主から法外な立退料を要求されたりして、困っている大家さんの相談を受けることがあります。
 
 貸主は家賃収入を得る目的で貸すのですから、賃料の支払は借主の最も重要な義務です。賃料の延滞が半年も続けば、賃貸借契約の基礎である貸主・借主相互の信頼関係を破壊していると考えられます。したがって、このような場合には、貸主は、賃料不払により賃貸借契約を解除して、建物明渡しの訴えを起こすことができます。

 この訴訟は比較的単純な事件であり、素人の貸主自身で、弁護士に依頼しなくとも、建物明渡しの訴訟ができる性質のものです。もっとも、訴状の作成や実際の裁判は、素人にとって法的な意味で難しいものです。司法書士の書類作成と支援とにより、大家さんは安心して裁判を受けることができます。
 もちろん当事務所で事件を受託できますが、最寄りの司法書士は、各地の司法書士会で紹介してもらうとよいでしょう。

2.建物賃貸借契約の解除

 この訴訟は、賃貸借契約が終了したのだから建物を明渡せと訴えるものですから、その契約を解除しておく必要があります。
 そのことは、貸主が借主に対して、延滞賃料の支払を催告し、賃料不払により建物賃貸借契約を解除する旨を内容証明郵便で通告することにより行います。内容証明郵便には配達証明を取ります。
 この内容証明郵便と配達証明は、賃貸借契約の終了原因となる事実を立証する書面となります。
 もし借主が郵便を受け取らないなどして内容証明郵便が到達しないとき、訴状に解除の旨を記載すれば、その訴状が相手方に送達された時にその意思表示が到達したことになります。
 
3.他に準備する書面

 ・建物賃貸借契約書
 ・建物の登記簿謄本
 ・建物の固定資産評価証明書

4.請求の趣旨

 建物明渡しと共に、明渡し済みまでの延滞賃料(解除後は賃料相当の損害金)の支払を請求します。

5.管轄裁判所

 不動産に関する訴えは、不動産の所在地を管轄する裁判所に起こすことができます。
 訴訟の目的の価額が90万を超えない請求は簡易裁判所の、90万円を超える請求および90万円を超えない請求のうち不動産に関する訴訟は地方裁判所の管轄に属します。簡易裁判所地方裁判所の住所・電話・交通機関・地図は、最高裁判所のホームページの「各地の裁判所の御案内」をご覧下さい。

6.訴えの手数料

 訴えを起こす者が裁判所に支払わなければならない手数料は、訴訟の目的の価額(訴額)に応じて算定されます。
 建物明渡しを求める訴えの場合には、建物の固定資産評価額の2分の1の額を基準として手数料を納めることになります。たとえば、固定資産評価額が180万円だとすれば、訴額は90万円、手数料は7,800円です。
 





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第5章 賃貸借契約の終了に基づく不動産明渡請求訴訟
 
第1 訴訟物
 1 主たる請求の訴訟物


 

 賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての建物収去土地明渡請求権
 

  (1)終了原因との関係
   *訴訟物について,賃貸借契約の終了原因ごとに考えるべきか。
    →一元説・・訴訟物は常に1個。
r.賃貸借契約の終了に基づく明渡請求権は,賃貸借契約の効果として発生する賃借物返還義務に基礎を置くものであり,解除,解約の申入れ等の終了原因自体の効果として発生するものではない。
*賃貸借契約の更新によって訴訟物は異なるか。
 →異ならない。r.更新前と更新後の賃貸借契約は,原則として同一性を失わない。
  (2)収去義務との関係
*建物収去土地明渡を請求する場合の訴訟物
 →賃貸借契約の終了に基づく建物収去請求権及び土地明渡請求権
r.土地返還義務とは別個の義務として収去義務を負う。
賃貸借契約の終了に基づく建物収去土地明渡請求権1個(通説) 
 r.目的物返還義務の中に原状に修復する,即ち付属物の収去義務が包摂されている。
 
 2 付帯請求の訴訟物


 

 目的物返還債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権
 

 
 
第2 典型的攻撃防御の構造
 
 1概説
  (1)請求原因






 

 ?@XがYとの間で土地賃貸借契約を締結したこと
 ?AXがYに対し,?@の契約に基づいて土地を引き渡したこと
 ?B?@の契約の終了原因事実
 ?C?Aの引渡し後,?Bの契約終了までの間に,土地上に建物が付属させられ,?Bの契約終了時にその建物が土地に付属していたこと
 

    *?@について →賃料額の合意及び返還時期(賃貸期間)の合意
*Yが建物を所有していることを主張立証する必要があるか。
 →ない。 r.建物収去義務は賃貸借契約の終了に基づき発生するものである。
 
  (2)付帯請求の請求原因


 

 ?D損害の発生及び数額 (賃貸借契約終了後の相当賃料額)
 

 
 
 
 
 
 
 2 終了原因として期間満了が主張された場合
  (1)期間満了



















 

民法


 



 
20年以下の契約期間の場合
→契約における存続期間の経過
20年を超える契約期間の場合
→20年の経過

借地法
 
期限の定めなし
 
堅固建物所有目的の場合60年
普通建物所有目的の場合30年





 
期限の定めあり



 
堅固建物について30年,普通建物について20年以下の契約期間の場合
→期間の定めない場合と同様
上記を超える契約期間の場合
→契約における存続期間の経過

借地借家法



 




 
30年以下の契約期間の場合
→30年の経過
30年を超える契約期間の場合
→契約における存続期間の経過
 

   ア建物所有目的の抗弁に対して,民法上の存続期間満了の請求原因と借地法等による存続期間の満了を選択的に主張する場合


 

上記期間の満了
 

   イ当初から建物所有目的を自認した上で,借地法等による存続期間の満了を主張する場合



 

?@XがYとの間で,賃貸借契約に付き建物(or堅固建物)所有を目的とする合意をしたこと
?A借地法等による存続期間の経過
 

 
  (2)建物所有目的の抗弁及びこれに関する攻撃防御
ア建物所有目的


 

XがYとの間で,賃貸借契約に付き建物(or堅固建物)所有を目的とする合意をしたこと
 

     ※建物・・社会通念及び立法趣旨に照らして決せられる。
      建物所有目的・・土地の賃貸借の主たる目的がその土地上に建物を所有することにあること
 
   イ一時使用



 

民法上の
期間満了
 

 
建物所有目的

 

 
?@短期間に限る合意
?A一時使用の評価根拠事実
 

 
一時使用の評価障害事実
 

     *一時使用のための賃貸借契約には借地法,借地借家法は適用されないが,ここに言う一時使用の意義
→賃貸借契約を短期間に限って存続させるとの合意に加えて,賃貸借契約に借地法,借地借家法の関係規定の適用を必要としない客観的合理的事情があることが必要(折衷説)
     *評価根拠事実 ex.賃貸期間を区画整理までとしたこと,短期間後の土地利用の具体的計画
 評価障害事実 ex.期間満了後に更新の協議をできるとの約定,多額の権利金の授受
 
  (3)黙示の更新の抗弁(民法619条)とこれに関連する攻撃防御方法





 

民法上の
期間満了


 



 
?@Yが期間満了以後土地の使用を継続したこと
?AXが?@の事実を知ったこと
?B?Aから起算して相当期間が経過したこと
?CXが?Bの期間内に異議を述べなかったこと
 



 
更新合意の不成立



 

    *黙示の更新の推定の性質
     →法律上の事実推定。賃貸借契約の更新の合意を推定する(判例)。
 
  (4)土地使用継続による法定更新の抗弁(借地法6条1項,借地借家法5条2項)とこれに関連する攻撃防御方法




 

民法上の
期間満了

 


 
Yが期間満了以後土地の使用を継続したこと

 


 
?@遅滞なく異議を述べたこと
?A更新を拒絶するに付き正当な事由があることの評価根拠事実(建物が存続していた場合)
 

 
 
 3 終了原因として解約の申入れが主張された場合 (民法617条・・存続期間の定めなき場合)



 

?@XがYに対し,賃貸借契約の解約申入れの意思表示をしたこと
?A?@のあと,1年が経過したこと
 

    cf.



 

民法上の期間満了

黙示の更新の抗弁

解約申入れ
 

 

 


・・更新後の賃貸借契約については解約申入れができる。別個の請求原因となる。

 
 4 終了原因として解除が主張された場合
  (1)賃料不払による解除






 

?@賃料を支払うべき一定期間が経過したこと
?A民法614条所定の支払時期が経過したこと
?BXがYに対し,その一定期間分の賃料の支払いを催告したこと
?C催告後相当期間が経過したこと
?DXがYに対し,?Cの経過後賃貸借契約を解除するとの意思表示をしたこと
 

   (賃料前払特約がある場合)



 

?@賃料前払特約を締結したこと
?Aこの特約による支払時期が経過したこと
 

   (無催告解除特約がある場合)




 

?B無催告解除特約を締結したこと
?CYの背信性の評価根拠事実
?DXがYに対し,?Aの支払時期の経過後賃貸借契約を解除するとの意思表示をしたこと
 

 
 

 

賃料不払による解除
 

 
解除の意思表示前に賃料及び遅延損害金の弁済の提供をしたこと
 

  
  (2)増改築禁止特約違反による解除







 

?@XがYとの間で,Yが建物の増改築をしないこと及びその特約に違反したときはXが賃貸借契約を催告なしに解除できることを合意したこと
?AYが建物の増改築をしたこと
?BXがYに対し,賃貸借契約を解除するとの意思表示をしたこと
 





 
信頼関係不破壊の評価根拠事実




 





 
信頼関係不破壊の評価障害事実
 

    *増改築禁止特約は有効か。
    →判例)有効 r.合意による使用収益権の制限であって借地法11条,借地借家法9条の契約条件に該当しない。
        但し,これにより土地の通常の利用が不当に拘束され,又は妨げられるなど一定の条件の下に於いては,特約に基づく解除権の行使が許されない。
   *義務違反行為についていずれが立証責任を負うか。
     →義務違反を主張するXが主張立証責任を負う。r.不作為債務
*増改築が無断でなされたことについて
 →Xが承諾したことについて,Yが主張立証責任を負う。
*信頼関係が破壊されたことについて
 →Y(賃借人)が増改築行為によっても賃貸人に対する信頼関係を破壊する恐れがあると認めるに足りない事情に該当する具体的事実を主張立証すべきである。
  r.賃料不払(による無催告解除)の場合に比べて不信行為が著しい。