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地方税等の時効 http://www.chihouzei.net/dic/dic_1.html

(1)時効の意義
時効とは、一定の事実状態が一定の期間継続する場合に、この事実状態が真実の権利関係に一致するかしないかを問わず、その事実状態を尊重してこれを権利関係にまで高める制度です。
時効の制度には、一定の期間他人の物を占有する者にその物に関する権利を取得させる取得時効の制度(民法第162条、第163条参照)と、一定の期間権利を行使しない者に その権利を消滅させる消滅時効の制度(民法第167条〜第174条の2参照)とがあります。
ここで問題とするのは地方団体等の租税や公課の徴収権の消滅時効の制度です。地方税法総則その他の規定では、消滅時効を単に時効ということがあります。
時効の制度が認められる理由は以下の3つです。
1.長期間継続した社会秩序の尊重
2.長期間の経過による証拠資料保全の困難性
3.長期間権利を行使しない者に対する法律の不保護(権利の上に眠る者を法は保護しない)
地方団体の徴収金の徴収を目的とする地方団体の権利(地方税等の徴収権)は、原則として法定納期限の翌日から起算して5年間行使しないことによって、時効によって消滅します(地方税法第18条第1項)。
国民健康保険料や介護保険料等の公課の徴収権の時効は2年です(国民健康保険法第110条第1項、介護保険法第200条第1項)。
従って、地方団体は時効によって地方税等の徴収権(納税者等の納付義務)がいたずらに消滅しないように厳格に管理する 必要があります。
時効期間の5年は、普通地方公共団体の他の公法上の金銭債権と同じです(地方自治法第236条第1項参照)。

(2)消滅時効の起算日
時効の起算日は原則として、法定納期限(地方税法第11条の4第1項)の翌日からです(地方税法第18条第1項本文、 民法第166条参照)。
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(3)時効の絶対的効力
地方税の徴収権の時効については、時効の援用を必要とせず、また、その利益を放棄することができません(地方税法第18条第2項、地方自治法第236条第2項)。
時効の援用とは、納税者等が時効期間が満了したから納付義務はないと主張することをいいます。
時効の利益を放棄するとは、時効期間が満了した後、納税者等が時効期間が満了したことを知った上で租税等を 納付することをいいます。
民事上の私債権については時効の援用が必要であり(民法第145条)、時効の利益をあらかじめ放棄することはできませんが、時効の完成後はその利益を放棄することができます(民法第146条)。
地方税等の徴収権については、民事上の私債権とは逆に、時効の援用を必要とせず、また、時効の利益を放棄することができません。これを時効の絶対的効力といいます。
時効の援用を必要としないとは、納税者等が地方団体の徴収権が時効になっているから納付義務はないことを主張しなくても、地方団体は租税等を収納してはならないことをいいます。
時効の利益を放棄することができないとは、納税者等が時効になっていることを知っているにもかかわらず納付したいとして 納付しようとしたとしても、地方団体は収納してはならないことをいいます。従って、時効完成後に納付があり、地方団体がこれを誤って収納したような場合には、過誤納金として還付しなければなりません (地方税法第17条)。
租税等の時効は絶対的効力があるので、時効期間が満了しているにもかかわらず、地方団体が納付の請求をすること、納税者等が時効の援用をしないからといって収納すること、また、納税者等が時効の利益を放棄して納付しようとしたものを 収納することは、租税法律主義に反して違法になります。
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(4)民法の規定の準用
地方税の徴収権の消滅時効については、地方税法で規定している別段の定めがあるものを除いて、民法の時効の規定が準用さ れます(地方税法第18条3項)。ただし、次の民法の規定は当然準用されません。
 1.民法第167条第1項(債権の消滅時効
 2.民法第145条(時効の援用)
 3.民法第146条(時効の利益の放棄)

●質疑応答
◆1−Q−1
地方税の徴収権の時効は法定納期限の翌日が時効の起算日とされていますが、固定資産税や住民税、あるいは国民健康保険税(料)のように、地方税等で納期を分けているものの時効の起算日はいつとなりますか。
■1−A−1
固定資産税や住民税、あるいは国民健康保険税(料)のように、納期を分けているものについては、第1期分の納期限が 法定納期限となります(地方税法第11条の4第1項)。
納期を分けているものは、各納期限を過ぎるごとに督促され、督促は時効の中断事由となる(地方税法第18条の2第1項二号、国民健康保険法第110条第2項、介護保険法第200条2項)ため、最後の期の納期限を過ぎた後督促状を発した日から起算して、原則として、10日を経過した日の翌日から、時効は新たに 進行することになります(地方税法第18条の2第1項二号等)。

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◆1−Q−2
不動産取得税の時効の起算日はいつとなりますか。地方税法第17条の5第1項は随時に課税する地方税の法定納期限は、その地方税を課税することができることとなった日であるとしています (地方税法第17条の5第1項)。課税することができることとなった日は、不動産が取得された日の翌日であるとすれば、不動産が取得された日の翌日から時効が進行することとなるのでしょうか。
■1−A−2
地方税法第17条の5は賦課決定権の期間制限に関する規定です。不動産取得税の賦課決定権の期間制限については、不動産が取得された日の翌日から期間を計算しますが、時効については、地方税法第18条第1項に規定するとおり、法定納期限(地方税法第11条の4第1項)の翌日から時効が進行することになります。随時に課税する地方税については、同じ法定納期限という用語の意味が、地方税法第17条の5第1項と地方税法第11条の4第1項とでは異なっています。
◆1−Q−3
小さな市町村によっては、時効期間が満了しているにもかかわらず納付請求したりしています。また、時効期間が満了していることを知っているにもかかわらず、時効期間が満了していることを知らないで納付した場合これを収納し、後に納税者が還付請求しても還付しないところもあります。このようなことは地方税法上許されるのでしょうか。
■1−A−3
質問にあるような取扱いは、地方税法第18条の規定に違反する違法行為です。地方団体がそのような違法行為をするこ とは租税法律主義の原則に反して許されません。