e-study宅建
http://blog.mag2.com/m/log/0000114305/105575386?page=1から引用
平成17年度宅建試験合格対策模擬問題 その4
〔問題9〕 Aが所有する土地について次に掲げる事実が生じた場合,民法
の規定および判例によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。

1 Aを売主,Bを買主として売買契約を締結し,BがAに代金全額を支払った
後,AがBへの所有権移転登記を完了する前に死亡し,Cが相続をした場合,
Bは,所有権の移転登記をしていないので,Cに対して当該土地の所有権の
移転を主張することができない。

2 AがDから土地を譲り受けたが,その未登記の間に,Eが権原のないFから
その土地を賃借して,建物を建築し,建物保存登記を行った場合,Aは,Eに
その土地の明渡しおよび建物の収去を請求することができない。

3 Gが,A所有の土地を占有し取得時効期間を経過した場合で,時効の完成
後に,Aがその土地をHに譲渡して登記を移転したときは,Gは,登記なしに
Hに対して当該時効による土地の取得を主張できる。

4 Aの所有地にIがAに無断でI名義の所有権移転登記をし,Aがこれを知りな
がら放置しておいたところ,IがI所有地として善意無過失のJに売り渡し,Jが
J名義の所有権移転登記をした場合,Aは,その所有権をJに対抗することが
できない。

〔問題9〕  正解 4
1 BはAに代金全額を支払ったのであるから所有権移転を主張することがで
きる.また, 相続人CはAの一切の権利義務を承継することになるので,Bは,
Cに対して当該土地の所有権の移転を主張することができる(民法896条) 。
誤り。

2 Eが権原のないF,つまり,無権利者から賃借をして賃借権の登記をしても,
その登記は無効である。Aは,登記がなくてもEにその土地の明渡しおよび
建物の収去を請求することができる。誤り。

3 時効の完成後にAからHに所有権が移転し,その移転登記が行われていた
場合,Gは,登記がなけれぱ第三者であるHに土地の取得を主張することはで
きない(同法17 7条,判例。ただし,時効の完成前に第三者に所有権が移転
した場合には,その第三者に対して登記を経由しなくても時効取得をもって対抗
することができる) 。誤り。

4 Aは,無断でI名義の所有権移転登記が行われたことを知りながら放置して
いたのであり,このような場合,Iの行為は虚偽の意思表示に該当するが,虚偽
の意思表示は,善意の第三者に対抗することができない(同法94条2項, 判例)
ので, Aは, その所有権をJに対抗することができない。正しい。正解。



第144条(時効の遡及効)
時効ノ効力ハ其起算日ニ遡ル
第145条(時効の援用)
時効ハ当事者カ之ヲ援用スルニ非サレハ裁判所之ニ依リテ裁判ヲ為スコトヲ得ス

第2節 取得時効
第162条(所有権の取得時効)
二十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ物ヲ占有シタル者ハ其所有権ヲ取得ス
十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ不動産ヲ占有シタル者カ其占有ノ始善意
ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動産ノ所有権ヲ取得ス


http://66.102.7.104/search?q=cache:pokx4tmNZkAJ:www.shiho-shoshi.or.jp/shuppan/geppou/2004/05/200405_47.htm+%E6%99%82%E5%8A%B9%E3%80%80%E6%8F%B4%E7%94%A8%E3%80%80%E6%89%BF%E7%B6%99%E3%80%80%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E4%BA%BA&hl=ja&lr=lang_ja&inlang=ja%20target=nw

Monthly SHIHO-SHOSHI
月報司法書士 2004年5月号(No.387)

講座 家族法研究ノート第5回
取得時効の援用と共同相続
立命館大学法学部助教
本山 敦(もとやま あつし)


■はじめに
 相続人は、相続を承認または放棄する「選択権」を有する。受遺者も、遺贈を承認または放棄する「選択権」を有する(民法第989条)。
 これら選択権と異なり、相続人に選択の余地が付与されている場合がある。例えば、民法第187条1項は、「占有者ノ承継人ハ其選択ニ従ヒ自己ノ占有ノミヲ主張シ又ハ自己ノ占有ニ前主ノ占有ヲ併セテ之ヲ主張スルコトヲ得」と規定する。「占有者」「前主」を〈被相続人〉に、「承継人」「自己」を〈相続人〉にそれぞれ置き換えれば、占有期間の計算にあたり、[1]相続人の占有期間だけを主張する、または、[2]被相続人の占有期間と相続人の占有期間を通算して主張する、という選択肢が相続人に与えられている。
 では、相続人が、[3]被相続人の占有期間だけを主張することはできるだろうか。占有が問題になるのは主に取得時効の場面である。判例・通説は、被相続人の占有権あるいは時効援用権を相続人が承継し、相続人が時効の援用権者たる「当事者」(民法第145条)として、被相続人の占有によって完成した取得時効を援用できるとしてきた。
 さて、相続人による取得時効の援用について再考を迫る(と筆者には思われる)最高裁判決が登場した。そこで、今回は、判例評釈風に、取得時効法と相続法の交錯する問題を検討する。


■一.最判平成13年7月10日(注1)

1 事案の概要
 Aは、弟Y(被告・控訴人・上告人)所有名義の土地建物(以下、「本件不動産」という)に居住し、約27年間占有を継続していた。Aが死亡し、相続が開始した。Aの相続人は、妻B・長男C・長女D・二男X(原告・被控訴人・被上告人)である【相続関係図】。
Y   死亡A===B
        |
      C D X
 Xは、Aの占有を相続によって承継したとして取得時効を援用し、本件不動産の所有権移転登記をYに求めた。一審・原審ともXの請求を認容した(注2)。
 Yが上告受理を申し立てた。Yは、「Xのごとく時効取得者の死亡による相続に伴い本件不動産の占有を承継した者、すなわち単なる占有の承継人には、取得時効の援用権を認めるべき何ら合理的理由はなく、いかなる意味でも『直接ニ利益ヲ受クヘキ者』には該当しない」「XがAの相続人である旨の主張こそ提出されているが、他の相続人との遺産分割の協議により所有権移転登記請求権を単独で承継したなどXが右請求権を有することの理由付けがなされていない」などと主張した(注3)。


2 判旨
 破棄差戻。
 「……時効の完成により利益を受ける者は自己が直接に受けるべき利益の存する限度で時効を援用することができるものと解すべきであって、被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができるにすぎないと解するのが相当である。〔原文改行〕これを本件についてみると、Aの法定相続人の間で本件不動産の全部をXが取得する旨の遺産分割協議が成立したなどの事情があれば格別、そのような事情がない限り、Xは、Aの占有によって完成した取得時効の援用によって、本件不動産の全部の所有権を取得することはできないものというべきである。そうすると、これと異なり、本件不動産の全部について、Xの所有権移転登記手続請求を認容した原審の判断には、民法145条の解釈適用の誤りがあるといわざるを得ず、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。……遺産分割協議の成否等Aの相続人間における本件不動産の帰属について更に審理を尽くさせる必要がある……」。


■二.先例・学説
 本判決の考察に入る前に、先例と学説を一瞥する。


1 先例
 先例としては、旧法下の家督相続がらみの大審院判決と現行法下の東京高裁判決がある。
(1)大判大正8年6月24日
(注4)
《事案》
 Pは明治35年に隠居し、Pの孫Q(原告)が家督相続人となった。Pは、隠居財産として留保(旧民法第988条)しないまま係争土地建物に居住し、占有を継続した。Pが死亡し、旧法下の遺産相続(旧民法第992条)が開始した。Pの孫R他2名(被告)が同土地建物に居住し、占有を継続している。QRの法定相続分は各2分の1である。Qが、Rらに対して同土地建物の所有権確認ならびに引渡請求をした。Rが、Pによる同土地建物の短期取得時効(10年)を援用した。原審は、Rの取得時効援用の効果が同土地建物全部に及ぶ旨の判示をしたようである。
《判旨》
 破棄差戻。
 「……按ずるに、民法第145条に所謂当事者とは、時効の完成に依り直接に利益を受くべき者を指称することは夙に当院の判例として示すところにして(注5)、当事者の数人ある場合に於て、其一人若くは数人が各自独立して時効を援用することを得べきや否やに関し一般に規定する所なしと雖も、其援用の方法に付き何等之を制限する規定の存せざると、又我民法が当事者の援用を竢って始めて時効に依り裁判を為し得べき制度を採用したる精神に鑑みるときは、如上の場合に於て、各当事者は各自独立して時効を援用することを得ると同時に、裁判所は、其援用したる当事者の直接に受くべき利益の存する部分に限り時効に因り裁判することを得べく、援用なき他の当事者に関する部分に及ぼすことを得ざるものなりと解するを妥当とす。本件に付き、Rは原審に於て其先先代Pの本件係争不動産に関する取得時効を援用したりと雖も、同人はPが時効に依り取得したる本件係争不動産の所有権をQと共にPの遺産相続人として各其2分の1の権利を承継したりと謂うに在れば、Rの援用したる部分は其2分の1に止まるべきは勿論、裁判所も亦、其部分に限りて援用の当否を判断せざるべからざる……(注6)」
(2)東京高判昭和32年12月11日(注7)
《事案》
 係争土地建物の名義人は、先々代S、先代Tを経てU(原告)となっている。Sの義妹Vは、S名義であった大正14年当時から同土地建物に居住し、昭和29年に死亡した。Vの5人の子のうちのWが同土地建物に居住し、占有している。UがWに土地家屋明渡請求をしたところ、Wが取得時効を援用した。一審は、Uの請求を棄却し、Wに法定相続分(5分の1)の持分を認めたため、Uが控訴した。
《判旨》
 控訴棄却。
 東京高裁は、前出(1)大正8年判決を引用した上で、「……Wは、前示Vの相続人の一人として右Vのため完成した取得時効を援用し、本件土地建物に右Vの死亡によりWを含めた直系卑属5名の共有に帰属しUの所有に属しないと主張するのであるが、Wを除く他の共同相続人4名において右時効を援用した事跡のない本件にあっては、叙上説示する如く裁判所としては、Wの法定相続分5分の1の限度においてWの右時効援用の効果を判定すべきものであるから、結局Wは前示時効の完成並びにVの死亡による相続の結果本件土地建物の5分の1の持分を取得したものと判断するにとどめる外はない。Uは、Vのため完成した取得時効の援用は共同相続人全員共同でしなければならないと主張するが、Wが右時効の援用により直接に受くべき利益の存する限度即ち前示法定相続分に関する限りにおいては自己単独で右時効を援用し得ることは多言を要しない」。
(3)小括
 昭和32年判決は先例として大正8年判決を挙げているが、本件・平成13年判決は大正8年判決を引用していない。ところが、本件の掲載誌に付されたコメントでは、大正8年判決が先例として示唆されている。
 大正8年判決も昭和32年判決も論理構造は同一である。すなわち、被相続人によって占有期間が完成した後、共同相続が開始し、共同相続人の一人が取得時効を援用したところ、当該相続人の法定相続分についてのみ援用の効果が認められると、裁判所は言うのである。
 実は、大正8年判決には、疑問もある。同判決で、Qは係争土地建物が家督相続財産であるとの主張をしていた。Qの主張の実質は、所有権確認ならびに引渡請求ではなく、むしろ家督相続回復請求であった。そして、家督相続回復請求訴訟であったなら、Qが勝訴していたかもしれない事案だったのである。なぜなら、Rが援用したのは短期消滅時効(10年)であり、Pの隠居から判決までの時点では、家督相続回復請求権の消滅時効(20年、旧民法第966条)が未だ経過していなかったからである。つまり、大正8年判決は、家督相続回復請求として争われていたら、まったく逆の結論になった可能性もある。そして、現行法には存在しない家督相続回復請求を想起させる事案であることが、先例として適切でないので、それゆえ本判決の先例として引用されなかったのかもしれない。


2 学説
 本判決掲載誌のコメントは、大正8年判決を踏まえて、時効の「援用の相対的効力については学説上も異論をみない」と述べるが、学説では、相続人による取得時効の援用の効果の及ぶ範囲が相続分を限度とするかどうかの検討はほとんどされてこなかった。
 そもそも、相続人が時効の援用権者であるかどうかについては、ボワソナードも当然と考えていた(注8)。
 学説では、従来から、被相続人の占有が取得時効の完成を満たしていない状態で、占有を承継した単独相続人または共同相続人の一人が、登記名義人に対して取得時効を援用する類型(対所有者取得時効型)と、被相続人名義の不動産を占有する共同相続人の一人が、他の共同相続人に対して取得時効を援用する類型(対共同相続人取得時効型)について、主に検討がされてきた(注9)。
 しかし、本判決では、取得時効の期間(20年、民法第162条1項)はAの占有によって完成しているので、対所有者取得時効型とは異なる。また、Xが本件不動産の所有権を取得することに、他の共同相続人が反対していないから、対共同相続人取得時効型とも異なっている。
 本判決に対する評釈・コメントはおしなべて、本判決の結論に賛成しているが、筆者には多くの問題があるように思われる。項を改めて論じる。


■三.本判決の問題点

1 援用権の五月雨的行使
 第一の問題は、共同相続人の一人が取得時効を援用した場合に、法定相続分の範囲で援用の効力が生じるとした点である。そうすると、Xは取得時効を援用して法定相続分(6分の1)について本件不動産の持分を得られる。その後、Bが法定相続分(2分の1)、つづいてCが法定相続分(6分の1)、さらにDが法定相続分(6分の1)というように、各相続人がそれぞれの援用権をばらばらに行使し、その都度、Yは訴訟と移転登記に応じることを余儀なくされることになる。しかも、取得時効の期間は、Aの占有によって既に完成しているから、Yには時効を中断する術もない。
 Yにすれば、Aの占有の完成によって所有権を失い、もはや所有権を取り戻すことができないというのであれば、Xら共同相続人からの訴えの被告に何回もさせられるというのも望まないところであろう。本判決は、訴訟経済上も好ましくないし、取得時効によって反射的に所有権を失うYを何度も被告席に座らせる可能性があるという点において不適切である。しかも、援用権の行使には期限がないのだから、Xから取得時効の援用があった後、どのくらい経ってからBCDから取得時効の援用がされるのかYには分からない。Yにできることは、敗色の濃い所有権確認訴訟を提起するぐらいしかない(注10)。
 占有者(A)が生きていれば一人だけだった援用権者が、共同相続によって複数になるというのは、登記名義人(Y)から所有権を失わせる不利益のみならず、複数回の訴訟に晒すという追い討ちまでもかけるものである。


2 相続財産性
 Aが生前に取得時効を援用し、本件不動産の名義もAとなっていたのであれば、本件不動産がAの相続財産として、相続の対象となるのは当然である。しかし、本件でAは取得時効を援用せずに死亡している。つまり、本件不動産については、A死亡時の名義人はYである。本判決は、「……本件不動産の全部をXが取得する旨の遺産分割協議が成立したなどの事情があれば格別……」と述べるが、A名義でないY名義の本件不動産を、共同相続人が相続財産として遺産分割の対象になぜできるのだろうか。つまり、取得時効を援用して初めて、A名義になる。相続開始時に、Aの相続財産と言えないのに、それに対してどうして遺産分割が観念できるのだろうか。
 繰り返し言うと、Aの生前に取得時効が援用されていたのであれば、それはAの財産になったのだから、Aの死亡時に相続人に承継され、遺産分割の対象となるのは当然である。しかし、Aは取得時効を援用せずに死亡したのだから、Aの死亡時に相続人に本件不動産が相続されるはずはない。時効取得は原始取得だから、Aが占有を開始した時点に遡ってAに所有権があったことになるにしても、取得時効を援用して初めてAの財産になるのに、援用前に(相続財産になる前に)共同相続人による遺産分割の対象にできるかのような説示はおかしいのではないか。援用が先か、分割協議が先か、ということである。援用して相続財産になるのなら、援用が先でなければおかしいだろう。
 また、例えば、本件でXが取得時効を援用して6分の1の持分を取得したとする、しかし、他の共同相続人がYに済まないと思って援用をしなかったとする。そのような場合に、Xの名義となった6分の1は、共同相続財産なのだろうか、それともXの固有財産なのだろうか(注11)。共同相続財産だとすると、他の相続財産の分割に際して、Xが本件不動産の6分の1を取得し、他の共同相続人が援用権を放棄したことを、どのように評価するのだろうか。
 さらに、民法は特定の相続財産について個別の承認や放棄を認めていない。例えば、BがAの相続について単純承認しながら、本件不動産についてだけ取得時効の援用をしない(援用権を放棄する)というようなことが、相続法の体系上、許されるのだろうか。むしろ、BがAの相続について単純承認したのであれば、取得時効の援用権も行使されたと考えるべきではないのだろうか。


3 Aによる処分
 例えば、Aが本件不動産の占有権をXに全部相続させるという、いわゆる「相続させる」遺言をした場合に、Xは単独で本件不動産全部について援用権を行使できるのだろうか。
 また、Aが相続分の指定を行ったような場合ではどうか。例えば、妻Bに全財産の4分の3、子CDXに各12分の1というような指定の場合に、時効の援用についても、妻Bは本件不動産の4分の3について援用権を行使できると考えてよいのだろうか(注12)。
 さらに、Aが本件不動産の占有権を特定ないし包括遺贈したような場合はどうなるのだろうか。受遺者は、遺贈によって占有権を取得し、取得時効を援用できるのだろうか。
 これらに対しては、Aの死亡時点でA名義となっていない本件不動産を遺言による処分の対象にすること自体の是非から、やはり疑問が生じる。しかも、右のような遺言による処分があった後に、当該遺言が無効となったような場合には、取得時効の効果の帰趨はどうなってしまうのだろうか。


■むすびにかえて  ―差戻審の結論―
 さて、最高裁は本件を原審に差し戻したが、未公刊の差戻審判決(東京高判平成13年12月13日)を偶々入手したので紹介する。


1 追加事実
 本件不動産にはXとBが居住している。Aは昭和62年12月に死亡し、その遺産分割協議が翌昭和63年6月に行われた。XBCDは、本訴提起前の平成9年4月に遺産の「分割の追加補正」を行ったとして、以下の内容の「遺産分割協議書」を証拠として提出した。
 第一条 Xは、本件土地建物の全部につき、Aによる時効取得のための占有を原因とする取得時効の援用者となり、その現在の所有名義人であるYに対して時効取得を原因とする本件土地建物の所有権移転登記手続を請求し、本件土地建物の単独所有者となる手続をする。
 第二条 本件土地建物については、前条の手続をXが行うことにより、Xが遺産分割により単独取得したものとする。
 これに対して、Yは、Xらが最高裁判決中の「……Aの法定相続人の間で本件不動産の全部をXが取得する旨の遺産分割協議が成立したなどの事情があれば格別……」との要件を満たすために、日付を遡って「分割の追加補正」を捏造したというように反論した。Xは、遺産分割協議には期限がなく、分割の効果はA死亡時に遡及するのだから、「分割の追加補正」は有効だと再反論した。


2 差戻審判旨
 控訴棄却(確定)。
 「……Xが本件訴訟を提起する直前である平成9年4月7日に、Aの相続人らは、Xが本件不動産について時効の援用権者となって、Yに対してX単独名義への所有権移転登記請求訴訟を提起することを容認するとともに、Xが本件不動産を取得するものとする旨の遺産分割協議を成立させていることが認められる。……Xは、前記遺産分割協議の成立により本件不動産について、Aの本件不動産に対する20年間の自主占有により完成した取得時効の援用権を全部承継したものと認められる」。


3 若干のコメント
 Xの「分割の追加補正」は、はっきり言って「後出しジャンケン」である。とはいえ、本件不動産について、あるいは取得時効の援用権について、Xらが遺産分割で特段の取り決めをしていなかったとしても、Xら共同相続人は法定相続分に応じて取得時効を援用できるのだから、Aの占有によって取得時効の期間が完成している以上、Yが本件不動産の所有権を失うことに変わりはない。五月雨的に援用権が行使されるよりはまだマシなのかもしれない。
 とはいうものの、Xらが、Yの名義となっている本件不動産を最初の分割協議において分割の対象としなかったことは、そもそも自主占有の意思の欠如を示しているようにも思われるから、差戻審の事実認定に疑問がないでもない。
 また、本件の結論に従えば、Aの生前であれば、実際に占有していたAに援用権の行使が認められるのは当然としても、実際に居住も利用もしていない相続人であっても観念的な「占有を承継」しているから、取得時効の援用ができることになる(注13)。だが、それは、「占有保護」の行き過ぎなのではないだろうか。占有は事実状態から生じた法的安定性を保護する制度のはずであるが、居住も利用もしない相続人に何ゆえに占有ないし援用権の承継を認めなければならないかが問われるべきである。
 さらに、例えば共同相続人の一人が第三者に相続分を譲渡したような場合にも、その第三者が取得した相続分に応じて取得時効の援用ができることになるはずである。しかし、そのような結論は妥当なのだろうか。観念的な占有の持分が譲渡されたような場合に、居住も利用もしていない譲受人を取得時効の援用権者とする必要はあるのだろうか。
 占有の観念化に併せて、取得時効の援用権のいわば「財産権化」が進み、時効援用権が相続財産の一種となってしまったかのようである。そして、本件はその一表現なのである。
 ところで、被相続人が有していた取消権が共同相続人の一人によって行使された場合に、法定相続分の範囲でのみ、取り消しの効果が生じるというようなことは考えられない。取り消しの対象たる行為の全てが取り消されるか、共同相続人全員による取消権の行使が求められるかの、いずれかであろう。
 また、被相続人が有していた解除権が共同相続されたとしても、解除権については不可分性が規定されているから(民法第544条)、共同相続人の一人による解除権の行使は認められない。
 もとより、取消権・解除権と時効援用権とでは性質が異なるといってしまえばそれまでなのかもしれないが、取消権や解除権との対比においても、取得時効の援用権が法定相続分に従って「分割」されるというような構成に、なんとも違和感が拭えないのである。

(注1) 家月54巻2号134頁、判時1766号42頁、判タ1073号143頁、金法1631号95頁、金判1131号3頁。
 評釈・コメントとして、門広乃里子・法教259号122頁、田中康久・登記研究653号115頁、西原諄・判タ1091号64頁、平城恭子・判タ1125号24頁(平成14年度主要民事判例解説)、松久三四彦・判例セレクト01-16頁(法教258号別冊付録)、松本克美・判評522号12頁(判時1785号182頁)がある。

(注2) 一審(東京地判平成10年5月25日)、原審(東京高判平成10年11月26日)ともに未公刊。

(注3) 上告受理申し立て理由書は長文のせいか、前出注1判タ・金法は同理由書を掲載しておらず、家月・判時は同理由書の前半(第一)のみ掲載しており、金判が理由書の全文(第一・第二)を掲載している。本文中で引用した部分は、理由書前半(第一)の要点である。

(注4) 民録25輯1095頁。

(注5) 大判明治43年1月25日民録16輯22頁を指すと思われる。

(注6) 原文の片仮名を平仮名にし、句読点を付した。

(注7) 東高民時報8巻12号304頁、法律新聞86号7頁、判タ78号55頁。

(注8) 山本豊「民法145条」民法典の百年?U257頁以下(有斐閣、1998年)。

(注9) 類型の命名は、門広乃里子「相続と取得時効」私法60号233頁以下(1998年)による。占有と取得時効に関する最近の文献として、辻伸行「共同相続人の一人による占有と取得時効」民法解釈学の展望―品川孝次先生古稀記念1599頁以下(信山社、2002年)。

(注10) しかも、各相続人が時効を援用し、持分の登記を全て移転するまでの間は、Yの名義が登記簿上に存在し続けるから、Yの名義を信頼して取引に入ってくる第三者が現れることも考えられ、取引の安全も害される可能性がある。

(注11) 前出注1松久は、共同相続財産として捉える。

(注12) 前出注1門広123頁は、これを肯定する。

(注13) 判例・通説の立場である。前出注1田中118頁。

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 Xの代理人弁護士田中紘三・田中みどり・田中みちよ先生から本件一審・原審の判決文、差戻審の準備書面・判決文等の未公刊資料のご提供をいただいた。記して、深謝申し上げる。