従業員兼務取締役の解任・解雇
http://www.fuji-law.ne.jp/qanda/qanda16.html
http://www.inagakilaw.com/asof/html/09x03/090603.html

会社議事録文例集
http://www.jusnet.co.jp/business/gijiroku/

会社議事録モデル文例集

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従業員兼務取締役の解任・解雇
   
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 従業員兼務取締役をやめさせる場合、取締役解任のための手続と従業員解雇のための手続の双方をとる必要がある。また、解雇の手続を強行した場合、相手方から仮処分などの法的措置を執られるおそれがあるので注意を要する。

Q1  従業員兼務取締役とはどの様な地位をいうのでしょうか。

  会社ではよく「取締役総務部長」とか「取締役人事部長」とかいう肩書を持たせることがありますが(会社の商業登記簿に取締役としての役員登記もなされている)、例えばXがこれらの地位にある場合、Xは会社の役員である取締役の地位と会社の従業員である地位とを併せ持つことになります。
  商法には規定がありませんが、このような場合を従業員兼務取締役といいます。なお、取締役総務部長とされ、取締役と事実上呼称されていたとしても、役員登記がなされていなければ単なる従業員に過ぎません。




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Q2  ところで、取締役総務部長Xは最近、仕事上のミスが多く、もともと社長とも個人的な折り合いが悪かったため、この際、会社はXを辞めさせたいと考えていますがどうすればよいでしょうか。


  以下、設例を株式会社の場合として想定してみましょう。
  Xの地位は取締役としての地位と従業員としての地位との二面性がありますので、区別して考えることが必要です。


  まず取締役としての地位は、会社と法律的には委任関係にあります。そして商法上、取締役を解任するためには特段の理由は要求されていませんが、会社の発行済株式総数の過半数出席の株主総会において、三分の二以上の解任決議が必要となっています(特別決議)。 従って、臨時召集でも構いませんが、この株主総会の手続を経れば、Xを取締役会のメンバーから外すことはできます。

  しかしながら、それだけではXを辞めさせたことにはなりません。すなわち、Xの取締役たる地位はなくなっても、なお従業員たる地位が残っているからです。会社と従業員との関係は、法律上雇用関係にあり、従って、Xを辞めさせるには、さらに通常の従業員と同様に解雇手続が必要となります。


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Q3  通常の解雇手続で重要なことは何でしようか。

  労働者たる従業員の解雇には、労働法規に従ってなされることが必要不可欠で、大まかに言えば、Xに社会通念上、解雇されてもやむを得ないような重大な理由がなければ解雇は認められません。使用者側の解雇権の濫用を許さないというものです(解雇法理)。
  本件では、社長個人との折り合いが悪いということは、解雇において、およそ法律上の正当理由とはなり得ませんから、仕事上のミスが多いという点が問題となります。
  前提として会社の就業規則上の解雇事由にもよりますが、これに該当するものとしても、ミスがちょっとしたものに過ぎないのであれば解雇は認められないでしょう。

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Q4
 会社が臨時株主総会を開催し、Xの解任決議をしたうえで、さらにXの解雇を強行した場合どうなりますか。


  Xが泣き寝入りすれば、もちろん何も問題となりません。
  しかし、Xが法的手続を取ることを前提に検討しますと、会社がXを解雇したとしてXの出社を拒絶すれば、Xとしては当該解雇が無効なものとして、地位保全の仮処分(従業員たる地位の仮の確認、及び賃金の仮払を求めること)の申立をし、賃金(従前の役員報酬全額ではなく従業員として相当な給与額)の仮払いを認めてもらって、会社からは賃金の支払いは継続させながら、本裁判を起こして勝訴判決を求める方向で対抗してくることが予測されます。


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Q5
 仮に、Xの地位が専務取締役であった場合はどうでしょうか。


  もちろん、名実ともに会社の専務取締役である場合には、もはや従業員たる地位は問題とはならないでしょう。
  しかしながら、役員登記もしてあるが専務とは名ばかりで、当人の具体的職務内容を見ると、就労形態、取締役会開催及び出席の有無、報酬の額、社会保険加入の有無、税務処理の仕方等を総合判断しても、当人と通常の従業員とで何ら異ならないという場合があります。
  そうすると、この場合にも、先の解雇法理が問題となりますのでご注意を。


取締役1(商法18)

理事に対して「取締」と言う単語は、江戸時代にも多用されていましたので、江戸時代からの継続している商業組織を、近代的に衣替えして法文化した会社法(商法)では、取締役の用語をそのまま使いました。
銀行で多用されていた、頭取と言う名称もこの範疇に入るでしょう。
取締と言う用語も、理事同様に上位者から一定の事項を取り締まる権限を、ゆだねられた印象の強い言葉です。
商法では、会社のオーナーは、株主であって、取締役はそれを預かって運用する立場の人です。
「08/08/03 会社の乗っ取りと商業登記法1」で紹介しましたが、もう一度商法を見ておきましょう。

商法

第254条 取締役ハ株主総会ニ於テ之ヲ選任ス

会社ハ定款ヲ以テスルモ取締役ガ株主タルコトヲ要スベキ旨ヲ定ムルコトヲ得ズ
会社ト取締役トノ間ノ関係ハ委任ニ関スル規定ニ従フ」
第254条ノ3 取締役ハ法令及定款ノ定並ニ総会ノ決議ヲ遵守シ会社ノ為忠実ニ其ノ職務ヲ遂行スル」

取締役は、オーナーの集団である総会で選任され、会社との契約関係は、雇用ではなく委任契約であるとされています。
就任するとすぐ次の条文で、法令に従い(当たり前です)定款と個々の総会決議に従わねばならないばかりでなく、積極的に会社のための忠実義務まで規定されています。
従来の下僕たる番頭同様の、忠実義務の維持に熱心な様子が見て取れますね。
ただ、番頭は、相当の理由がない限り、いきなり解雇されることはなかったのですが、取締役になると、委任ですから、なんらの理由がなくともいつでも解任できることになっていて、その地位はきわめて不安定です。

商法を見ましょう。

第二百五十七条 取締役ハ何時ニテモ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得 但シ任期ノ定アル場合ニ於テ正当ノ事由ナクシテ其ノ任期ノ満了前ニ之ヲ解任シタルトキハ其ノ取締役ハ会社ニ対シ解任ニ因リテ生ジタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得」

この条文は、実際にそのように運用されており、労働者に対する解雇権乱用の法理のような保護はありません。
任期中でも、正当な事由がなくて解任できることが、257条に明記されているのですから、解任された取締役は、解任が不当であると訴えることが出来ないのです。
法的に何の保護もないことになります。
任期中に正当な事由がなくて解任された場合、損害賠償請求できるといっても、任期は最長期でも2年しか認められていませんので、殆ど役に立ちません。

商法

第二百五十六条 取締役ノ任期ハ二年ヲ超ユルコトヲ得ズ

最初ノ取締役ノ任期ハ前項ノ規定ニ拘ラズ一年ヲ超ユルコトヲ得ズ
前二項ノ規定ハ定款ヲ以テ任期中ノ最終ノ決算期ニ関スル定時総会ノ終結ニ至ル迄其ノ任期ヲ伸長スルコトヲ妨ゲズ」
もちろん労働基準法の適用はありませんよ。
プロ野球の選手同様、一人前のプロとしての委任契約を前提とするからです。
雇用契約でなく、委任契約であることは、254条で見たとおりですが、契約の種類が違うことによってこのような差が出てきます。